マクロビオティック(玄米菜食)という食事法が広く知られるようになって、玄米は一般的には自然で健康に良いというイメージがあります。
しかし、この記事をお読みになっている方の中には、「毒出しの作用があると聞いたのに玄米を食べるとアトピーが悪化した」「健康に良いはずなのに玄米を食べるとかゆみが止まらない」という方も多いのではないでしょうか。
実は、このような方は玄米の食事への取り入れ方を間違えている場合があります。
健康な人であれば、玄米の摂り方を間違えていても、さして問題はおこりません。しかし、アトピーの方は玄米の摂り方を間違えると、返ってアトピーを悪化させてしまうのです。そして、残念なことにそのような人が多いです。
そこで、このページでは玄米を食生活取り入れるための正しい考え方について説明していきます。
目次|このページでわかること
玄米が体に良いとされる理由
冒頭で述べたように、近年の健康志向の高まりによって、マクロビオティックという玄米菜食の食事法が広く知られて、なんとなく「玄米=自然で健康に良い」というイメージが広まりました。
玄米が健康に良いとされる理由は主に下記の3つです。まずは、これらについて詳しく説明していきます。
【玄米が健康に良いとされる理由】
- 豊富な栄養素を人体に理想なバランスで含んでいる
- 有害金属を体外に排出させる働きがある
- 腸内環境を整える働きがある
玄米は完全栄養食
玄米が健康に良いとされる理由として最初に挙げるのが、白米に比べて栄養価がはるかに高く、人の体に必要とされている栄養素が全て理想的なバランスで含まれているということです。そのため、玄米は「完全栄養食」とも呼ばれています。
一般的に食べられている白米は、精米の過程で外側の皮の部分を全て取り除いたものを指し、主な栄養素は炭水化物だけとなっています。
それに比べて、玄米とは、米の籾殻のみを取り除いた、未精製の米を指します。精製されずに残っている皮の部分にタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれており、これらのバランスが人間の体が必要としている栄養バランスと一致するのです。
例えば玄米に含まれる糖質の割合は70%となっており、そして、この糖質の特徴として吸収が緩やかで血糖値の跳ね上がりを起こしにくい、といった具合です。また、健康な体を維持するために必要なミネラルである「カリウム」と「ナトリウム」が人の細胞の比率に近い5:1の割合で含まれているため、吸収の際に負担が少ないとされています。
極端なことを言ってしまえば、人間は完全栄養食の玄米と少量の塩さえあれば生きていけるのです。このように、玄米には人の体に必要な栄養素が理想的な割合で豊富に含まれています。このことが玄米が健康に良いとされる理由の一つです。
玄米は豊富な栄養素を人体の理想のバランスで含み「完全栄養食」とも言われている
体内の有害金属を排出するキレート作用(フィチン酸)
次に、例をあげるのが玄米の「キレート作用」です。キレート作用とは体内に蓄積した重金属を体外に排出する働きのことを指します。
玄米には「フィチン酸」という天然成分が含まれており、この成分には有害な重金属と結合して便などの排泄物と一緒に体外に排出するという働きがあるのです。
ところで「重金属」と聞くと「そんなもの食べてないけどどういうこと?」と不思議に思う方も多いのではないでしょうか? ですが、実は私たちは意識しないうちに有害な金属を体内に摂り入れてしまっている可能性があります。
有害な金属として代表的な物が「水銀」です。水銀が体内に蓄積されると様々な健康被害を招きます。そしてアトピーにとっても悪影響を及ぼしてしまいます。(水銀のアトピーへの悪影響はこちらで説明しています)
水銀は特にマグロやカツオなどの大型の魚を多量に食べたりすることで、体内に蓄積されやすい金属です。工業過程で排出された水銀は海に流れてプランクトンがそれを吸収します。そしてプランクトンを魚が食べ、その魚をより大型の魚が食べるというように、食物連鎖の上にいる魚ほど多くの水銀を含んでいると言えます。
したがって、このような魚を食べ過ぎていると体内に水銀がたまり、アトピーを悪化させてしまうこともあるのです。
先に述べたフィチン酸はこのような有害な金属と結びつき体外に排出する作用を持っています。この成分の作用が「玄米には解毒作用がある」と言われる要因でもあります。
玄米に含まれる「フィチン酸」には体内の有害金属と結合して、体外に排出する解毒作用がある
腸内環境を良くする
玄米が体に良いとされる3つ目の理由が「腸内環境を良くする」というものです。
すでに述べたように、玄米には豊富な栄養素が含まれています。その中には「食物繊維」も含まれており、これが腸内環境を良くする働きをするのです。
【食物繊維の比率】 | ||
白米100gあたり | 玄米100gあたり | 白米と玄米の食物繊維比率 |
0.5g | 3.7g | 約6倍 |
科学技術庁資源調査会《五訂日本食品標準成分表》
私たちの腸内には、人体に有益な働きをする「善玉菌」、有害な働きをする「悪玉菌」、そしてこの2つの勢力バランスを伺って有利な方に従う「日和見菌」という3種類の菌が生息しています。これらの菌のバランスを善玉菌優位に傾けることで、腸内環境を良くすることができます。
食物繊維は腸内で分解されて「短鎖脂肪酸」という物質を作り出します。これが善玉菌のエサになり、善玉菌を増やすことになります。また、食物繊維は体内には吸収されずに、腸内で悪玉菌を増やす原因となる老廃物(宿便)を搦め捕り、体外に排出してくれる働きも持っています。
このように、玄米に含まれる食物繊維には腸内環境を良くする働きがあるのです。そして腸内環境を良くすることは、アトピーの改善に大きく役立ちます。
腸内環境の改善がアトピーに改善に有効な理由について詳しく知る>>
玄米は豊富な食物繊維を含んでおり、腸内環境を良くする働きがある
ここまでの説明のように、玄米は白米に比べて、優れた点が多くあります。しかし、これらの特徴は単体で見たら素晴らしいのですが、アトピーの場合はこの高い栄養素が返って害になることもあるのです。
アトピーには悪影響になることが多い
さて、ここまで説明してきたように、玄米は白米に比べてはるかに栄養価が高く、健康に良い食品とされています。
しかし、この栄養価の高さがアトピーの人にとっては返って逆効果になってしまうことがあります。
その理由が下記になります。
【玄米がアトピーを悪化させてしまう理由】
- 白米に比べてタンパク質を多く含む
- 白米に比べて脂質を多く含む
- フィチン酸がアトピー改善に有益な金属も排出させてしまう
詳しく説明していきます。
タンパク質の含有量が多い
玄米がアトピーを悪化させてしまう、第一の理由が、玄米が「高タンパク」であるということです。
すでに説明しているように、玄米には白米に比べて多くのタンパク質が含まれています。このタンパク質がアトピーの悪化の原因となってしまいます。
【タンパク質量の比較】 | ||
白米100gあたり | 玄米100gあたり | 白米と玄米のタンパク質量比 |
6.1g | 6.8g | 1.15倍 |
科学技術庁資源調査会《五訂日本食品標準成分表》
私たちが食物から摂り入れた栄養は、腸から吸収されます。腸の壁面は拡大してみると、とても細かい網の目状の構造をしており、この構造によって、網の目をすり抜けられるほどに分解された物質(栄養素)と、そうでない未分解の物質を選別して体内に摂り入れているのです。
そして、タンパク質はそのままではこの網の目を通り抜けることはできません。消化されて「アミノ酸」という小さな物質まで分解されることによって初めて、網の目を通り抜けて栄養として体内に吸収されるのです。
しかし、アトピーの方の場合、食生活の乱れによって、この腸壁の網の目構造が壊れてしまっていることがあります。すると、未消化のタンパク質のような大きな物質でも、腸壁をすり抜けて体内に吸収されてしまうことになります。
このようにして体内に侵入したタンパク質は、体内の免疫細胞によって、異物=敵と見なされて攻撃されます。すると、その際に免疫細胞によって放出される化学物質によって周囲の皮膚組織も攻撃されてしまい、それが炎症となってアトピーを悪化させることになるのです。
例えるならば、タンパク質はアトピーという火災を引き起こす燃料です。通常の白米よりも燃料の多い玄米を摂ることは、アトピーの改善どころか自身で火に油を注いでいるようなものなのです。
アトピーの人がタンパク質を多く摂りすぎると、それが炎症の原因となり症状が悪化してしまいます。そのため、がまんできずに引っ掻いてしまい、アトピーを悪化させてしまうのです。
高タンパクな玄米はアトピーの原因物質になってしまうことがある
脂質の含有量が多い
玄米がアトピーを悪化させてしまう理由としてもう一つあげられるのが、玄米が白米に比べてはるかに「高脂質」であるということです。この脂質もアトピーの人にとって害になってしまうことがあります。
米に含まれる油には体を炎症を起こしやすい体質に変えてしまう作用があるのです。
【脂質量の比較】 | ||
白米100gあたり | 玄米100gあたり | 白米と玄米の脂質比 |
0.9g | 2.7g | 3倍 |
【玄米の脂の成分組成】 | ||
オレイン酸 | リノール酸 | その他 |
42% | 37% | 21% |
科学技術庁資源調査会《五訂日本食品標準成分表》
玄米に含まれる脂質の組成は「オレイン酸」と「リノール酸」でほぼ半々です。両者のうちオレイン酸は無害な油として有名ですが、後者のリノール酸が問題です。
リノール酸は体内で分解されて「アラキドン酸」という物質に変換され細胞の壁面に蓄積されていきます。
アトピーの炎症を起こす免疫細胞のひとつに「マスト細胞」という細胞があります。この細胞は体内に侵入してきた異物に対して化学物質を放出し、その異物を除去しようとする細胞です。この化学物質の放出を「脱顆粒」と呼びます。この時に放出される化学物質によって、自身の細胞も傷つけられてしまうためアトピーのような炎症が生じることになります。
先述のアラキドン酸はこのマスト細胞の細胞壁にも蓄積されます。そして、アラキドン酸を蓄えたマスト細胞は異物に対して敏感に反応するようになり、脱顆粒を起こしやすくなるのです。これは、ちょっとしたことで炎症を起こしやすくなったり、アレルギーを起こしやすくなったりすることを意味します。
また、細胞の壁面に蓄積されたアラキドン酸は、体内の酵素の働きによって、「プロスタグランジン」や「ロイコトリエン」という炎症物質に変わります。そのため、かゆみや炎症が強くなってしまうのです。
このように、玄米には白米に比べて多くの脂質が含まれています。この脂質が私たちの体を炎症体質に変えていってしまうのです。
玄米には体を炎症体質にしてしまう植物油が白米に比べて3倍も含まれている
フィチン酸の効果が悪影響を与える
先に、玄米に含まれる「フィチン酸」という成分には、体内の金属を体外に排出する作用があることを説明しました。
この作用は、とても有益な作用なのですが、またしてもアトピーの場合はこの作用が裏目に出て有害になってしまうことがあるのです。
先に、体内に蓄積される有害な金属として「水銀」を例に説明しました。しかし、金属の中には私たちの体の健康に必要な、有益な金属も存在します。それが「カルシウム」「マグネシウム」「亜鉛」などの、いわゆるミネラルと呼ばれるものです。
フィチン酸は体内の金属と結合し体外に排出させます。これは有害な金属だけではなく、アトピーの改善に必要な金属においても作用してしまうのです。例えば、フィチン酸によって排出されてしまう金属の中で「亜鉛」はアトピーの改善に大きく関わっています。
亜鉛には、免疫システムの乱れを正常にしたり、細胞の生まれ変わりを助ける酵素が作られるのを助ける働きがあるのです。亜鉛が不足してしまうと、免疫機能が乱れてアトピーが悪化したり、炎症によって傷ついた皮膚の再生が遅くなったりしてしまいます。
このように、玄米に含まれるフィチン酸は、体内の有害な金属以外にも、有益な金属まで排出させてしまうのです。これはアトピーの方にとって、炎症の回復を遅らせたり、反対に炎症を悪化させたりする原因となってしまうのです。
フィチン酸は有害金属だけでなく、「亜鉛」などのアトピー改善に必要な金属も排出させてしまう
アトピーの方のための正しい玄米食の取り入れ方
さて、ここまで、玄米のメリットとデメリットについて詳しく説明してきました。玄米はヘルシーで健康に良いイメージのある食品ですが。ちゃんとした玄米食の理論を知らずに、玄米のみを取り入れても、害の方が現れてしまいます。そして、アトピーの場合はそれが顕著に現れます。
玄米は「菜食」と組み合わせるからこそ効果がある
冒頭に説明したように、玄米はそれ単体で完結できるほど栄養価の高い食品です。この玄米は、低脂質、低タンパクの野菜と組み合わせて「玄米菜食」にするからこそ真価を発揮するのです。
それ単体で完璧な栄養素を持つ玄米を主食として、さらに欧米型の高タンパク、高脂質の副菜を加えた食生活をしていたらどうなるでしょう。明らかに栄養過多になります。そして、この余剰分の栄養が利用されないまま体内に蓄積しアトピーの原因として現れるようになってしまうのです。
健康に良い食品を摂りたい気持ちはわかります。しかし、それはなんでもかんでも取り入れれば言い訳ではありません。全体の栄養を考えてバランスのとれた内容にしていかなければいけないのです。
玄米を取り入れるのであれば、副菜は低タンパク、低脂質の野菜や、ミネラルを多く含んだ海藻類などを合わせるようにしましょう。決して、「玄米+肉+卵」のような内容にしてはいけません。
栄養価の高い玄米に高カロリーな肉や乳製品と合わせると毒になる。菜食と組み合わせるから薬になる。
よく噛んで食べることで悪影響を減らすことができる
また玄米を食べる時には「よく噛む」ことが重要です。一般的に白米を中心とした食事では1口について30回は噛むように言われていますが、玄米の場合は50回以上噛むようにしましょう。
噛むことで高タンパクな玄米でも分解しやすくなるので、未分解のタンパク質によるかゆみの悪化を最小限にすることができます。
また、よく噛むことによて、胃腸で「フィターゼ」という酵素が分泌されます。フィターゼには先に説明したフィチン酸を分解する働きがあるのです。そのため、亜鉛などの体に必要なミネラルの排出を防ぐことができます。
このように、玄米を食事に取り入れる場合には、よく噛んで食べることが必須です。噛むことで玄米のデメリットを最小限に抑えて、メリットのみを享受できるようになるでしょう。
玄米を食べるときは、よく噛むことでデメリットを最小限にすることができる
玄米は、栄養素が高くとても優れた食品ですが、正しい摂り方をしないとその高い栄養価が返ってアダになります。
健康に良い食品はそれ単体を多く摂ればいいとうものではありません、食事全体を見てバランスを良く摂ることが必要です。玄米を摂る際は野菜などの菜食と組み合わせて摂るようにしましょう。
まとめ
マクロビオティックなどの食事法が広く知られるようになってから、玄米にはヘルシーで体に良いイメージがあります。ですが、それは玄米のイメージだけが先行してしまっています。
玄米は菜食と組み合わせたマクロビオティックだからこそ、体に良い影響を与えるのです。
この理論を知らずに、玄米そのものだけを取り入れても、返って悪影響が現れる場合が多いです。そして、それは特にアトピーの人に顕著に現れます。
私自身、「玄米がアトピーに良いよ」と勧められて一時期、白米から玄米に切り替えていた時期がありました。しかし、体に良いものと思って玄米を食べていたのに、しばらくすると顔の炎症がひどくなり、マスクが手放せなくなってしまいました。
その時は多くの方と同様、普段の欧米型に偏ったおかずに玄米を合わせて食べてしまっていたのです。
そこで、正しい食事法を学び、一度は白米に菜食を合わせた食事法に直しました。すると、それまでひどかった顔の炎症が落ち着きました。それから、菜食を中心に白米と玄米とを時々切り替えるような食事をしたところ、症状はとても軽くなりました。
もしも、玄米を取りれたいのならば、玄米だけでなく、食事法ごと取り入れましょう。なお、アトピーの症状が重い場合は、玄米は食べずに菜食のみを取り入れるのが賢明です。