アトピーの方は、そうでない方に比べて皮膚のバリア機能が弱くなっていたり、そうでなくても搔き壊しによって皮膚が傷ついていたりして細菌が侵入しやすい傾向があります。
普段のアトピーとは違う水ぶくれのような症状が出てきた、急に症状の部分がジュクジュクしてきたという方は、アトピーに加えて「とびひ」を併発している可能性があるかもしれません。「とびひ」とは「黄色ブドウ球菌」や「レンサ球菌」という細菌に感染することで起きる感染症です。
とびひに感染するとかゆみだけ出なく、痛みも生じることになるため、とても辛い状態になってしまいます。そのため、なるべく早い対処が必要です。ただ、この時に誤った対処を行なってしまうと、一時的には症状が改善するものの長期的にみてデメリットになることもあります。
このページではとびひに感染してしまった時の対処法について説明していきます。
目次|このページでわかること
とびひに感染したらまずは殺菌・消毒を考える
冒頭で述べている通り、とびひは「黄色ブドウ球菌」や「レンサ球菌」などの細菌に感染することによって起きる症状です。
とびひに感染すると、まず皮膚に破れやすい水ぶくれができ始め、その後、ジュクジュクした黄色い液(浸出液)やかさぶた、皮膚がめくれた状態などが混ざったような状態へと変化していきます。
これらは、菌が原因なので、この菌を殺菌消毒すればいいということがわかります。
とびひの原因菌を消毒する方法としては下記の3つがあります。
【とびひにかかった時の消毒方法の例】
- 抗生剤の使用
- 意外と優秀なイソジン
- 酸性水
これらの対処法について詳しく説明していきます。
抗生剤で原因菌を殺菌する
とびひにかかって、病院を受診すると「抗生剤(抗生物質)」を処方されるでしょう。
抗生剤は細菌の細胞に対して毒性をもつ物質で、これを塗ったり、重症の時には服用したりすることで、感染した細菌の増殖を抑制して殺菌することができる薬です。
これによって、とびひの原因である「黄色ブドウ球菌」などの病原菌を殺菌し、感染症を治すのです。風邪をひいた際に、親知らずを抜いた際に感染症を防ぐ為に抗生剤を処方されるのと同じ理屈です。
とびひにかかった場合は抗生剤がもっとも効果が強いです。ただし、抗生剤の乱用は禁物です。抗生剤は菌に対して毒性をもつと説明しましたが、この作用は菌であれば無差別に働きます。そのため、人の健康を保っている有益な菌も殺してしまうのです。
例えば、抗生剤を内服した場合は腸内に棲む善玉菌を殺してしまいます。すると腸内環境が悪化しアトピーの症状を悪化させてしまうことになるのです。腸内環境とアトピーには密接な関係があります。
また、肌に抗生剤を塗った場合は、普段肌で病原菌が増殖するのを防いでくれている有益菌も殺してしまいます。その為、確かに塗った瞬間はとびひの症状が軽減するかもしれませんが、その後、返って悪化してしまったり、感染症を起こしやすくしてしまうのです。
アトピーととびひを併発してしまった際は、その細菌を倒すことが重要になります。その際に強力に働くのが抗生剤です。ただし、すでに述べているようにこの作用は、体内で無差別に働いてしまう為、有益菌をも殺菌してしまい、返ってアトピーを悪化させることにもなり得るということを念頭に入れて起きましょう。
抗生物質はとびひに対してとても有効だがデメリットも大きい
イソジンで消毒
アトピーととびひが併発した際に、対処法として抗生剤の次によく行われるのが「イソジン」による消毒です。「うがい薬」として有名なアレです。イソジンには強力な殺菌作用があり、これによってとびひの原因菌を殺菌することができます。
患部を弱酸性の石鹸で優しく洗い、脱脂綿などにイソジンを染み込ませたもので消毒していきます。そのあとに軟膏類などを塗り、ガーゼで保護しておくことで、軽いものならば治ってしまいます。
このように、とびひを併発した場合はイソジンによる消毒が有効に働きます。
ただし、これもやりすぎないようにすることが重要です。皮膚を洗いすぎると、皮膚のph値(酸性かアルカリ性かを示す値)が、有益菌が住みやすい弱酸性の状態から病原菌が繁殖しやすい中性〜アルカリ性に傾いてしまいます。すると、殺菌していたつもりが、返って皮膚の上で病原菌が繁殖しやすくなってしまいます。
また、消毒することに関してもすでに述べているように、やはり、やりすぎると有益菌も殺してしまいます。さらに、消毒液自体にかぶれてしまう場合もありますので、注意が必要です。
イソジンは様々な細菌に対して有効な消毒液で、とびひにも有効
抗生物質よりも害は少ないが、薬品かぶれなどの可能性はある
酸性水
「酸性水」とは、その名の通り、ph値が強力に酸性に傾いた水のことで強い殺菌力のある水で、「強酸性水」や「強酸性電解水」などとも呼ばれます。病原菌を瞬間的に殺菌してくれる作用を持つ水です。
対象菌 | 殺菌するまでの時間 |
黄色ブドウ球菌 | 5秒 |
引用:岩沢篤郎「医療における電解水の利用と応用」『機能水医療研究』1(1)、1999年、1-8p
これを、とびひを起こした患部に吹きかけることで、原因である菌を消毒することができます。
酸性水にの他にはない良いところは他の薬品類に比べて安全性が高いという点です。
ひとつは、水なので他の薬品類に比べて肌への刺激が少ないということがあります。その為、消毒液で起こるような薬品かぶれなどを起こしにくいです。
さらに、殺菌後はすぐにただの水に戻る薬品が皮膚に残留せず、後述する耐性菌も作りません。
また、少し実用的な面で言えばイソジンと比較した時に、色が残りにくいなどがあるかもしれませんね。イソジンは黒褐色の液体で、塗った場所に茶色の色素が残ってしまうのです。その分酸性水ならば無色透明なのでその心配はなく、外出先などでも使えます。
酸性水は、皮膚などの有機物に触れるとすぐに水に戻ってしまうという特性上、ガーゼや脱脂綿などに染み込ませて使うのではなく、直接肌にかける必要があります。酸性水にはスプレータイプのものがあるのでそちらを利用すると便利です。
このように、とびひなどの細菌感染を起こした場合は、酸性水での殺菌も有効な手段です。よく、「アトピーには酸性水療法が良いらしい」という情報を耳にします。これのほとんどは間違った情報ですが、唯一細菌感染が関わってくる場合はとても有効に働いてくれます。
酸性水とは殺菌力のある水で、他の薬品類に比べてデメリットが少なく安全に使用できる。
過剰な消毒療法は返って害になる
冒頭で述べているように、とびひは「黄色ブドウ球菌」や「レンサ球菌」などの病原菌に感染することで起こる感染症です。その為、これらの病原菌を殺菌してやれば良いということがわかります。ただし、過剰な消毒療法は禁物です。
理由としてはまず、皮膚の常在菌のバランスを崩してしまうということが挙げられます。
私たちの皮膚には様々な菌が棲息しています。その中には、黄色ブドウ球菌のような病原菌の他に、これらの病原菌と拮抗して繁殖を防いでくれている菌、いわゆる善玉菌(有益菌)に分類されるものも存在しています。これらの菌がいてバランスを保ってくれているからこそ、私たちは感染症から守られているのです。皮膚の表面に病原菌に対するバリアを持っているようなものです。
消毒療法を行い過ぎると、このバリアを形成してくれている有益な菌たちも無差別に殺してしまいます。その為、返って病原菌に感染しやすくなってしまうのです。
また、耐性菌の問題もあります。抗生剤などを長期間使用していると、病原菌が抗生剤に対して耐性を持ってしまう場合があります。
例えば、私たちヒトであっても長い間同じストレスを受けていると、だんだんとそれに慣れてしまい、やがてストレスに負担を感じなくなります。細菌も同じで、長期間消毒療法を行うと、抗生剤に「慣れた」菌が現れ始めるのです。このような菌を「MRSA」と呼んだりします。
病原菌が薬物耐性を持つと抗生剤などがほとんど効かなくなる為、治すのが困難になってしまうのです。すると、アトピーが重症化し、ジュクジュクした皮膚がいつまでも続くことになってしまいます。
このように、消毒療法は安易に行うと逆にアトピーを悪化させてしまうことがあるので、慎重になる必要があります。アトピーのように様々な要因が絡み合う症状では、単なる足し算引き算の治療法ではうまく行かないことの方が多いです。
過剰な消毒療法を続けると、長い目でみてデメリットがある
とびひにステロイドを使用すると重症化する
とびひの症状をアトピーの悪化と考えてステロイドを塗ってしまう方は多いです。
しかし、感染症に対してステロイドは禁忌です。
ステロイドは、私たちの体の免疫機能を抑制することで、炎症を抑える為の薬です。この薬を感染症を起こしている部分に塗ってしまうと、菌を抑える働きが弱くなる為、菌が繁殖し症状は悪化してしまいます。
ただ、場合によっては抗生剤入りのステロイド剤を処方される場合もあります。これは、免疫システムが行なっていた、菌の除去を抗生剤に頼ることで、まずは炎症を抑えるという判断です。ただし、先述のように抗生剤の長期の使用は耐性菌を生み出す原因になりますし、ステロイドの使用も一時的なものに限定すべきです。
どちらにせよ、可能であればステロイドなどは使用すべきではありません。
ステロイドを使用すると、基本的に感染症は悪化する
とびひを予防するには皮膚の常在菌を考える
さて、最後にとびひの予防方について説明して行きます。とは言っても難しいものではありません。アトピーととびひの併発を防ぐには皮膚の常在菌のバランス崩さないようにすることがもっとも大切です。
すでに説明していますが、私たちの皮膚上には多くの菌が生息しています。この中には皮膚上で病原菌の繁殖を防いでくれている菌がいます。これらの菌をむやみに殺さないことが重要なのです。
そのためにまず注意すべきなのは「適度な保湿」です。前述した有益菌は私たちの皮脂、つまり脂分を餌に活動します。そして、それらの代謝物として脂肪酸を作り出すことで、皮膚上を病原菌が苦手とする「弱酸性」に保ってくれています。
肌が乾燥していると、有益菌がこのように活動できなくなるため、肌が病原菌にとって快適な「アルカリ性」に傾いてしまうのです。 すると、乾燥による肌のバリア機能の低下も合間って、病原菌の侵入を許してしまい感染症を起こしてしまいます。
また、入浴時に過剰に肌を洗いすぎるのも問題です。
消毒と同様に、肌を洗いすぎると皮膚常在菌を洗い流してしまうことになります。そもそも、本来体を洗うのに「ボディーソープ(殺菌作用のある石鹸)」などは必要ないのです。 お湯は予想外に洗浄力があり、それだけで十分汚れは落ちるのです。油よごれのついたフライパンを洗う時にお湯の方が綺麗に洗えることを考えるとわかりやすいです。
夏場など、どうしても汗が気なる時だけ弱酸性の石鹸を使用し軽く洗うだけに留めるようにしましょう。
とびひのような感染症を予防するためには、別段特別なことをする必要はありません。むしろ、病原菌が原因だからと言って、消毒したり、過剰に洗いすぎたりする方が返って厄介な状況になってしまいます。
とびひの予防に特別なことはしない方が良い
細菌が原因だからと言って清潔にしすぎると返って感染しやすくなる
まとめ
アトピーにとびひを併発してしまった場合は、その原因である菌を殺菌することでかゆみや炎症を抑えることができます。
しかし、やりすぎてはいけません。消毒療法は過剰に行うと、皮膚を健康に保ってくれている皮膚常在菌まで殺菌してしまい、返って感染症を起こしやすくしてしまうのです。
何事もバランスが大切です。特にアトピーのように複雑な症状では単なる引き算、足し算のような考えだけでは逆効果になることが多いです。
消毒療法は一時的なものに留め、長期間行うことは避けましょう。