アトピーの治療では必ずと言っていいほど、「ステロイド薬」が処方されます。
ステロイド薬はアトピーの症状を強力に抑えてくれる、一見万能薬にも見える薬ですが、その重大な副作用が問題にもなる薬です。
その副作用の中で最も重大なものの1つが、視力の低下や失明を引き起こす「緑内障」です。
もし、仮にステロイドを使用していて下記のリストで当てはまるものがあったら注意が必要です。
ステロイドを使用していて…
- 眼が充血することがある
- 光を見るとその周囲に虹のような輪っかが見える
- 光を見たときに眼の痛みを感じる
- 視界が霧がかったように見える
- 軽い眼の痛みや、頭痛がする
このページでは、ステロイドの使用が「緑内障」を引き起こすメカニズムについて詳しく説明していきます。
目次|このページでわかること
緑内障とは
まず、緑内障とはどんな症状なのかを説明します。
緑内障とは、眼球内の「眼圧」が高くなることによって、目から脳に情報を伝える神経が損傷することで、視野が狭くなったり、最悪の場合は失明したりしてしまう病気です。
眼圧とは、眼球内の圧力のことであり、眼球の堅さを表す言葉です。
私たちの眼球の中は「眼房水」という液体が循環しており、それによって眼球内の組織に養分を補給しています。
この眼房水は、目のレンズの役割をする「水晶体」を支えている「毛様体」と呼ばれる部分で作られます。そして、「虹彩」より外側の空間にある「繊維柱帯」というフィルターを通って、その先にある「シュレム管」という管から排出されます。(下図参照)
このように、眼球内を循環することによって、眼球の組織に養分を運ぶと同時に、目を球体に維持しています。この時に眼房水によって眼球の内側にかかる力を眼圧と呼びます。
眼圧上昇のメカニズムとそれに関わる部位
1:【毛様体】…眼房水を作り出す組織
2:【シュレム管】…眼房水を排出するための排出路
3:【線維柱帯】…眼房水をろ過するフィルターの役割を果たす部位
4:【隅角】…眼房水を排出するための角膜と虹彩との間にある隙間
5:【虹彩】…瞳孔のの大きさを調節して、網膜に入る光の量を調節する
しかし、何らかの要因で房水の排出がうまくいかなくなり、眼球内の圧力が上昇してしまうことがあります。
眼房水の循環がうまくいかなくなり、眼圧が上昇すると、眼球の奥にある視神経が圧迫されることになります。この神経は脳に映像を伝えるケーブルの役割を持っている重要な神経です。
最初のうちは、目の疲れや、充血程度の症状ですが、長期間この眼圧の高い状態が続くと、やがて神経に障害をきたしてしまいます。
このように、眼球内の房水の循環がうまくいかなくなると、目の中の圧力が上昇します。すると、目の奥にある神経を圧迫して障害を起こし、視野が狭くなったり、視力が低下したりしてしまうのです。
これが、緑内障という症状と、それが起こるメカニズムです。
ステロイド剤で緑内障になるメカニズム
ここまで、緑内障は眼球の中を満たしている、房水の循環がうまくいかなくなることによる眼圧の上昇が原因であると説明しました。
この循環の不調には、「房水が多く作られすぎる」ことで、供給量が多くなりすぎることと「排出路が目詰まりを起こす」ことによって排出量が少なくなることの2つがあり、ステロイドによる緑内障の原因は後者です。
房水を排出する経路には「線維柱帯」というフィルターの役割を持つものがあるということは説明しました。ステロイドはこのフィルター部分に作用して目詰まりを起こします。この目詰まりの原因には下記の3つがあります。
1:フィルター自体の劣化した成分が蓄積して目詰まりを起こす
2:フィルターの清掃機能が低下して、異物が蓄積することで目詰まりを起こす
3:房水を排出するもう1つの出口(副経路)の働きを邪魔してしまう
それぞれ、詳しく説明していきます。
フィルター自体の劣化した成分が蓄積して目詰まりを起こす
まずは、フィルターである線維柱帯の細胞の周囲に、それ自身の劣化した成分が蓄積されてしまう仕組みについて説明していきます。
この仕組みを知るためにはまず、「細胞外基質」というものを理解する必要があります。
いくつもの細胞が繋がって私たちの体を構成していることは、ご存知だと思います。しかし、これらの細胞はそれ自身で繋がりあっているのではありません。
細胞の外側にある、タンパク質や糖質を接着剤として繋がりあうことで、私たちの体の組織を作っているのです。この時、接着剤の役割をするタンパク質や糖質を「細胞外基質」と言います。
よく夜中の通販番組などで軟骨成分として紹介される「コンドロイチン」や、美肌に良いとされる「コラーゲン」などがこれにあたります。
例えば、フルーツのたくさん入ったゼリーを想像するとわかりやすいです。中に入っている果物が細胞で、その周りを満たしているゼリーが細胞外基質であると考えてください。
このゼリーのように、いくつもの細胞を細胞外基質で繋ぐことによって、私たちの体は作られています。
そして、この細胞外基質は、古くなったものは分解され、新しいものが作られるという具合に、常に作り変えられることによって健全な状態に保たれています。
ステロイド薬は、線維柱帯の細胞に作用して、細胞外基質を分解する酵素が作られる働きを弱めてしまいます。
そのため、新しい細胞基質は作られるのに、古いものは分解されずに残るという現象が起きます。このことによって線維柱帯の周囲に細胞外基質が溜まり、フィルターの線維が太くなることで、目詰まりを起こしてしまうのです。
フィルターの清掃機能が低下して、異物が付着することで目詰まりを起こす
眼房水の排出を妨げるもう1つの作用は、フィルターに引っかかった異物を除去できなくしてしまうことです。
線維柱帯の細胞には、フィルターにかかった異物(壊死した細胞)を取り込み、除去する働きがあります。この働きを細胞の「食作用」と言います。
ステロイドはこの働きを抑えてしまうため、長期間使用していると線維柱帯に異物が蓄積してフィルターが詰まってしまうのです。
キッチンの排水口を想像してみてください。
排水口に固形物が流れるのを防ぐために網状の蓋をしているはずです。調理や洗い物で出たゴミはこの蓋によって受け止められます。しかし、この蓋を掃除せず放置していると、やがて詰まりを起こして水が流れなくなってしまいます。
このように、ステロイドはフィルターにかかった異物を取り除く細胞の働きを弱めてしまいます。そのため、フィルターにゴミが蓄積して目詰まりを起こし、眼房水の排出を妨げてしまうのです。
房水を排出するもう1つの出口(副経路)の働きを邪魔してしまう
ステロイドによる眼房水の循環の異常にはもう1つあります。
シュレム管という管が眼房水の排出の経路であると説明しましたが、実はもう1つ第2の排出路として「ぶどう膜強膜流出路」という経路が存在しています。
ステロイド剤はこの排出路の働きを促進させる物質が作られるのを邪魔していまいます。
この経路の働きを促進するものとして「プロスタグランジン」と呼ばれる物質があります。この物質は細胞膜に蓄積された脂肪成分が分解されて出来る物質ですが、炎症作用を持つ物質でもあります。
ステロイド薬の働きに、この炎症物質が作られるのを阻害して、炎症を鎮めるという作用があります。
この働きが作用して、プロスタグランジンが作られるのを邪魔してしまうため、ぶどう膜胸流出路から眼房水が排出される働きが弱くなってしまうのです。
このように、ステロイド薬は眼房水の排出する予備の経路の機能を弱めてしまいます。そのため、排出量が少なくなり眼球内の眼房水の量が多くなってしまうのです。
ここまで説明してきたようにステロイド剤には、眼球内を循環している眼房水の排出を阻害し、眼圧を上昇させてしまう作用があります。その結果、脳に映像を伝える働きをする視神経が圧迫されて障害をきたしてしまうことがあります。
このことによって、視力の低下や、視野が欠けてしまうことが、ステロイドによって緑内障を引き起こしてしまうメカニズムになります。
これらの作用はステロイドのランク(強さ)が高ければ高いほど強くなります。
瞼や目の周辺にステロイド剤を塗る時には特に注意しないといけません。目の周辺は体の中でも特にステロイド剤の吸収率が高く、さらにアトピーの症状が出ている場合はさらに吸収されやすいからです。そのため、たとえランクの低いステロイドであったとしても、長期間漫然と使用することは避けるべきです。
ステロイドによる緑内障の自覚症状
ステロイド薬による緑内障の自覚症状には、目の充血や、ごく軽い眼の痛み、視界が霧がかって見えるということがあります。
しかし、これらの症状は初期段階では認識しにくいことがあります。また、ある程度進行して視力の低下などがあっても、進行が緩やかであることや、両目がお互いの視野を補いあっているため自覚しにくいです。
【緑内障の自覚症状】
・眼が充血することがある
・光を見るとその周囲に周囲に虹のような輪っかが見える
・光を見たときに眼の痛みを感じる
・視界が霧がかったように見える
・軽い眼の痛みや、頭痛がする
上記のような自覚症状がある場合には、すぐに眼科を受診してください。そして眼圧の上昇があるのであればステロイドの使用を中止するべきです。
ステロイドによる緑内障を予防するには
ステロイド剤を眼の周辺に使用すれば、程度の差はあれ眼圧が上昇することがあります。そのため、可能ならばステロイドは使用するべきではありません。
もし、仮に使用する場合は定期的に眼科を受診し、眼圧を測定することが望ましいです。ステロイド剤による眼圧の上昇は、使用中の一時的なものであり、使用を中止すれば眼圧は正常に戻ります。
定期的に眼科を受診することで、眼圧の上昇を早期に発見できます。早い段階で気づき、視神経に障害をきたす前にステロイドの使用を中止すれば、眼圧は正常値に戻り、視力の低下を防ぐことができます。
また、ステロイド無しではどうしても症状を我慢できないという場合は「プロトピック」の使用も考えられます。
プロトピックとは免疫抑制剤の一種であり、ストロングクラスのステロイドと同程度の効果がある類似薬です。一般的にはステロイドと同様な副作用はないとされていますが、一方で、発がん性や、依存性のある薬品でもあるため、使用は慎重にかつ短期的に行う方が良いと考えます。
まとめ
ここまで説明してきたように、ステロイド剤は眼球内の眼圧を上昇させる作用があり、そのことによって「緑内障」を引きおこすリスクを持った薬です。
また、緑内障によって失った視力は戻ることは無いため、ステロイドが引き起こす他の副作用よりも重大であると言えます。
これらのことや、私自身が脱ステロイドやリバウンドで苦労した経験から、ステロイド剤は可能であれば使用すべき薬ではないと考えています。
しかし、症状が重すぎる場合や、社会生活を送る上でどうしても症状を抑えなくてはいけないなど、使用せざるを得ない場面もあるようにも思います。
もし仮にステロイド剤の使用を選択したとしても、副作用やその予防法などを十分に理解した上で慎重に使用すべきです。そして、ステロイド剤はあくまで、アトピーの症状を抑える薬であり、治す薬ではありません。
症状を抑えている間に原因に対処するという姿勢が、ステロイド使用において何より大切です。