アトピー治療で病院を訪れると、症状を抑えるための薬として「ステロイド」を処方されます。
初めてこの名前を聞いた時にドーピングとして良く耳にする、筋肉増強剤のステロイドを思い浮かべた人も多いと思います。そのため、炎症を抑えるためにステロイド使用していると、ボディビルダーのように体が筋肉質になってしまうのではないかと想像することでしょう。
しかし、アトピー治療のステロイドと、ドーピングのステロイドは全く別の物質であり、その作用も異なります。
そのため、抗炎症剤のステロイドを使用したからといって、そのことで筋肉がつくことは決してありません。
このページでは、ややこしいこの2つのステロイドの違いについて説明していきます。
目次|このページでわかること
そもそも「ステロイド」ってなに?
アトピーの抗炎症剤もドーピングとして知られる筋肉増強剤も「ステロイド」と呼ばれていますが、まず、そもそもステロイドとは何なのかということから説明していきます。
ステロイドとは「ステロイド核」と呼ばれる共通した構造を持つ物質を広く指す言葉であり、実は人間を含めてほとんどの生物の体内で自然に合成されているものです。
抗炎症剤や筋肉増強剤のステロイドは「ステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン)」とも呼ばれ、ホルモンとしての作用を持つステロイドの事を指します。
ホルモンとは体内の器官同士の情報伝達物質のことであり、私たちの体では何種類ものホルモンを分泌することで、それぞれの器官がどういう働きをするかという命令を出し合いながら体の状態を一定に保っています。
例えば、広く知られているものとして、血糖値を下げる働きのある「インスリン」というホルモンがあります。
血糖値とは血液中のブドウ糖の量を表した数値であり、この数値が高くなると膵臓という器官からインスリンを分泌し、筋肉や肝臓に対して、ブドウ糖を吸収するように命令を出します。これによって血液中のブドウ糖が吸収されるので血糖値が下がるのです。
何種類もあるホルモンのうち、ステロイドホルモンは副腎皮質(副腎の外側の部分)から分泌されるホルモンを指し、アトピーなどの抗炎症剤も筋肉増強剤のステロイドもこのホルモンの構造を元にして人工的に合成し、それぞれの効果を高めたものです。
抗炎症剤と筋肉増強剤のステロイドはそれぞれ「元」となるホルモンが異なる
「ステロイド」とは特有の構造を持つ物質を広く指す言葉であり、薬として使用されるステロイドは、副腎皮質で生成されているステロイドホルモンを元に人工的に作られたものであると説明しました。
しかし、ステロイドホルモンの中にもさらに複数種類があり、抗炎症剤と筋肉増強剤のステロイドは元となっているホルモンが異なっています。
「抗炎症剤・免疫抑制剤」としてのステロイド
まず、アトピーの治療で使用される「抗炎症剤」のステロイドについて説明します。
これは、数種類あるステロイドホルモンのうち「糖質コルチコイド(グルココルチコイド)」と呼ばれるホルモンを元に合成された薬です。糖質コルチコイドは本来、主に血糖値を調整する役割を持つホルモンであり、先ほど説明したインスリンに対抗して、下がりすぎた血糖値を下げる働きを持っています。
さらに、免疫細胞に作用してその働きを抑制することで、アレルギー反応や炎症を鎮める働きを持っています。
例えば、炎症が起きる時、体の中では様々な免疫細胞が働いています。ステロイドホルモンはそれらの免疫細胞に対して、その働きを鎮める命令を出す物質を発生させます。また、反対に細胞間でやりとりされている、免疫の働きを活性化させる命令を妨害する作用もあります。
これらの作用によって免疫機能を抑制することによって炎症を抑えるのです。
この免疫抑制作用を薬として利用しているのが、アトピーの治療で処方されるステロイド剤になのです。
このようにアトピーの治療薬として使用されているステロイドは、糖質コルチコイドの構造を元に科学的な処理をすることで抗炎症作用を高めたものを指します。
「筋肉増強剤」のステロイド
次に「筋肉増強剤」として知られているステロイドについて説明します。
このステロイドは別名「アナボリックステロイド」と呼ばれ、男性ホルモンである「アンドロゲン」の構造を元にして合成された薬剤です。アンドロゲンは副腎皮質や精巣から分泌されます。
アンドロゲンの主な働きには、男性機能の形成や維持の他に「タンパク質同化作用」といい、食べ物から摂取したタンパク質を筋肉に変えることがあります。
例えば筋肉を鍛えるといった場合、通常はトレーニングをして筋肉に負荷をかけます。この時、筋肉には細かな断裂が生じることになります。そうすると脳が異常を感じて、副腎皮質に対して命令を出しアンドロゲンを分泌させます。
このことによって、タンパク質から筋肉組織を作り、負傷した筋肉を再生しようと働くのです。
筋肉増強剤としてのステロイド剤は、このアンドロゲンの作用のうちタンパク質同化作用のみを強化したものを指します。
このように、同じ「ステロイド」という名前でも、抗炎症剤と筋肉増強剤のそれは、元となる物質が全く異なるのです。当然、作用も全く異なったものとなります。
まとめ
ここまで説明してきたように、アトピー治療で用いられる抗炎症剤のステロイドと、ドーピングで使用される筋肉増強剤のステロイドは、一部分共通した構造を持つため「ステロイド」と呼ばれ混同されがちです。
しかし、実際は全くの別物であり、その作用も異なったものになります。
したがって、例えアトピー治療でステロイド系抗炎症剤を使用したからといって筋肉隆々になることはありませんし、逆にアナボリックステロイドを使用したからといってアトピーの症状が改善することはありえません。
決して用法を混同したりなどしないようにしましょう。