アトピーにお悩みの方は、掻けば、掻くほどかゆみも、かゆい場所も広がっていき、もうどうにもならないと泣きたくなることもあるでしょう。
このようなかゆみの中、お風呂などで熱いシャワーを浴びたりすることによって、快感を感じかゆみ紛らわせることができたという経験はありませんか?
実際に私も経験があるので、とても良く分かるのですが、かゆい場所に熱湯をかけると何故かとても快感なのです。しかも、かゆみもおさまります。
ところが、このようにかゆい場所に熱湯をかけるのは、返ってアトピーの悪化を招いてしまうため、絶対に行ってはいけません。
このページでは、なぜ痒い部分に熱湯をかけると快感を感じるのかと、それを行ってはいけない理由について説明していきます。
目次|このページでわかること
なぜ熱湯をかけると快感を感じるのか
最初に、なぜかゆい部分に熱湯をかけると快感を感じるのかについて説明します。
そのためには、まず「かゆい」という感覚の特徴について説明しなければなりません。
「かゆい」という感覚には「掻くことで(刺激を与えることで)快感を感じる」ということと、「かゆみは痛みで置き換えることができる」という2つの特徴があります。
【かゆみとは・・・】
- 掻くことで(刺激を与えることで)快感を感じる感覚である
- 「痛み」という感覚で一時的に置き換えることができる
アトピーのかゆみはとても辛いですが、掻いている瞬間を思い浮かべてください。掻いているその瞬間は、私たちは「気持ちいい」と感じているはずです。
これは、かゆみを感じる部分を掻いた時に、脳の「報酬系」と呼ばれる部分が刺激されるからです。
報酬系とは、その名の通り快楽や、自分がご褒美をもらう感覚を感じる部位で、そこが刺激されることによって、掻くと気持ちいいという感覚が生まれるのです。
さらに、「かゆみ」のもう一つの特徴として、先に述べているように「痛み」という感覚にすり替えることができるという特徴があります。このことは、みなさん経験的にご存知かもしれませんね。
私たちの皮膚には、幾つもの感覚のセンサーがあり、それによって、「かゆみ」「痛み」「温度」「触られた感覚」などの信号を受け取ります。これらの信号は神経線維という伝達ケーブルを通って脊髄まで届き、そこから脳に伝わることでこれらの感覚を感じています。
そして、かゆみという信号は、痛みという信号を感じる時は一時的に遮断されてしまうという性質があります。
例えば、あなたが火傷をしたとします。火傷をすると皮膚が傷つくので、その部分では炎症が起き、炎症細胞によって、「痛み」や「かゆみ」を感じさせる成分が発生します。
しかし、その時あなたはどのように感じているでしょう。実際は痛みだけを感じていて、痒いとは微塵も思わないはずです。
ところが、日にちが経って、傷がだんだん治ってくると、「痛い」という感覚は弱くなり、今度は傷口が「かゆい」と感じ始めるはずです。
怪我をした時、実際には炎症によって「かゆみ」も「痛み」も同時に発生しているのですが、「痛み」という感覚の方が優先して感じられるため、「かゆみ」が抑えられているのです。
さて、ここでかゆい部分に熱湯をかけると気持ちいい理由に戻ってみましょう。
ヒリヒリするような熱を感じるということは、先述した皮膚のセンサーのうち、温度だけでなくて、痛みのセンサーも刺激していることになります。
つまり、患部に熱湯をかけることは、かゆい部分に爪を立てて掻きむしっているようなものです。そのため熱いシャワーをかゆい部分に当てると先述した脳の「報酬系」が刺激さ、とても気持ちよく感じるのです。
また、先に説明したように、痛みの感覚はかゆみを抑制するので、熱いシャワーをかけた後はかゆみがおさまったようにも感じます。
このように、「かゆみ」という感覚には、掻くなどの刺激を与えることで快感を感じること、痛みという刺激によって抑制されるという特徴があります。
痒いところに熱湯をかけるということは、痛みの感覚を与えることにもなります。そのため、熱湯をかけた瞬間には強烈な快感を感じ、さらに一時的にかゆみを忘れることができるのです。
熱湯でかゆみを紛らわせるのはアトピーに対して逆効果
さて、ここまで読んでいただいて、「皮膚を掻き壊すこともなく、かゆみが取れるのならばこれはいい方法ではないのか?」と考える方もいると思います。
ですが、その考えは間違いです。
かゆい部分に熱いシャワーなどをあてることは、皮膚に軽い火傷をおわせているのと同じことであり、アトピーではなかったとしても返って皮膚の状態を悪化させてしまいます。
まして、アトピーの場合はすでに皮膚がダメージを受けて過敏になっている状態です。そこに刺激を与えると、後から地獄のかゆみに襲われることになってしまいます。
肌の乾燥を促し、皮膚バリアの破壊を招く
過剰な熱の刺激を皮膚に与えることで、皮膚が炎症を起こしバリア機能が壊されていってしまいます。
私たちの皮膚は層のような構造をしており、下層から順番に「皮下組織」「真皮」「表皮」というように重なっています。そして、さらにその上に「角層」と呼ばれるとても薄い膜が何層にも重なっています。
この角層は、とても薄い膜ですが、水の分子や細菌のような極小の物質さえ通しにくい膜です。この膜が表皮を何層にも重なって覆うことによって、体内へ有害な物質が侵入してくるのを防ぐと同時に体の水分の蒸発を防いでいるのです。
角層は、体が作り上げた天然の防御膜、つまりバリアであると言えます。
仮に、角層が存在しなかったとしたら、人間は細菌に感染し放題、体の水分は蒸発し放題になってしまい、とても生命活動を維持できません。
この角層を作り出しているのが、その下層にある「表皮」です。表皮は「角化細胞(ケラチノサイト)」という細胞で構成されています。角化細胞は、表皮と真皮の境にある「基底膜」という所で分裂し、片方は上層に移りながら細胞の死である「角化」という過程を辿り始めます。
このように角化細胞が徐々に角化して、皮膚の最上層にまでたどり着いたものが積み重なって細胞となるのです。
このように、皮膚のバリアである「角層」は、表皮の下層でケラチノサイトが作られ、徐々に上層へと押し上げられていきます。そして、さらに最上層で古くなったものは垢として剥がれ落ちるというように、常に入れ替わりながら、良質な状態を保っており、その入れ替わりのサイクルは大まかに40日程度と計算されています。
先述のように、皮膚に熱湯をかけることは、軽い火傷を負わせているようなものです。このような熱刺激を与えることで、皮膚は軽度の炎症を起こしてしまいます。
軽度であるため最初はわかりにくいですが、皮膚が傷つくと、細胞は傷を修復しようとして分裂が早まり、角層の入れ替わりが早くなります。この時の入れ替わりの期間は約1週間ほどにまで短縮されてしまいます。
角層は角化の過程において、その内部に水分と結合して肌に潤いを持たせる物質(アミノ酸)を作り出します。
しかし、炎症反応によって皮膚細胞の入れ替わりのサイクルが早まっていると、角層が急激に作られ、潤い成分が作られる前に、皮膚の表面に達してしまいます。
すると、皮膚表面には潤いを十分に保てない角層が溜まっていくことになります。簡単に言ってしまうと、乾燥肌になってしまうのです。
肌の潤いは、肌のバリア機能を正常に保つ重要な要素です。この潤いが失われることによって正常なバリア機能が保てなくなり、アレルギー物質などを通しやすくなったり、かゆみの刺激に敏感になってしまったりするのです。
このように、皮膚に過剰な熱を与えることはアトピーの肌に対しては返って逆効果になってしまうのです。
かゆみ成分の働きを活性化させる
もう一つ、熱湯を患部にかけることがアトピーを悪化させる理由として、かゆみ成分や、かゆみ成分を発生させる細胞の働きを活性化させてしまうということがあります。
例えばかゆみ成分としてもっとも有名なのが「ヒスタミン」です。そして、私たちの体には、いたるところに、このヒスタミンを大量に抱えた「マスト細胞」という細胞が存在しています。
ヒスタミンはかゆみを感じさせる物質であると同時に、体内に侵入してきた異物や、自身の傷ついた細胞などを排除するための物質でもあります。体内に異物が侵入してくると、「マスト細胞」がこのヒスタミンなどの物質を撒き散らしてそれを攻撃するのです。
この現象が皮膚組織で起こることで、炎症が起こり、かゆみが発生するのです。
私たちの体の中の細胞や、化学物質は基本的に体温と同じかそれよりも少し高い温度の時に、もっとも活発に活動します。そのため、かゆみの発生している部分を熱することは、これらの細胞や化学物質を活性化させてしまい、返ってかゆみを強くしてしまうのです。
このように、患部を熱することは瞬間的にはかゆみを忘れさせることができます。しかし、もう少し長期的に見るとかゆみを増幅させることになるのです。
かゆみの無限ループに陥る
熱湯を患部にかけることでアトピーが悪化してしまう理由として、最後に、かゆみの無限ループを起こしてしまうということがあげられます。
皆さん、これも感覚的にご存知と思いますが、「かゆみ」という感覚は、掻けば掻くほど強くなっていきます。
これは、私たちの体の中に、ある種の「かゆみ増幅装置」があるからです。
例えば、何らかの原因でかゆみが発生し掻いてしまうとします。すると、皮膚のその部分は傷つき炎症を起こし、それによって皮膚炎が起きる、または悪化するということになります。
このことによって更にかゆみが増し、また掻いてしまう、というループを形成します。この一連のループを「イッチ・スクラッチサイクル」と呼びます。
このイッチ・スクラッチサイクルを放っておくと、どんどんかゆみが増幅し、炎症は悪化していくというサイクルを延々と繰り返してしまうのです。
アトピーの人は、炎症によって皮膚がかゆみの信号に対して過敏に反応する状態であることが多いです。その皮膚に熱湯で刺激を与えることは、このかゆみのサイクルを回し始めてしまうスイッチとなってしまうのです。そのため、熱湯によって一時的にかゆみを紛らわせたとしても、その後で地獄のかゆみが待っていることになりかねません。
このように、アトピーの症状がある場所に熱湯をかけることは、皮膚に軽い火傷を負わせているのと同じことです。一時的にかゆみを忘れて快感を感じることはできますが、返ってアトピーを悪化させることにつながってしまうのです。
まとめ
ここまでの説明のように、痒みの生じた場所に熱湯をかけることによって、強烈な快感を感じることができ、同時に一時的にかゆみを抑えることができます。
しかし、それはかゆみと熱感覚の伝わり方を利用したごまかしに過ぎず、このような方法で痒みをごまかす方法は絶対に行ってはいけません。
アトピーの症状が出ている部分に熱湯をかけると、返って症状を悪化させる羽目になってしまいます。例えば虫刺されなどすぐに治ってしまうかゆみならば、もしかしたら良いかもしれません。
しかし、アトピーの治療は長期戦になることが多いため、このように返って悪化を招く行為を行っている場合ではないのです。
かゆみを紛らわせたいのであれば、温めるよりも冷やすことの方が有効です。すでに説明しましたが、体内の細胞や化学物質は体温よりも上の温度で活性化します。つまり、ひやすことで、これらの働きを弱め、かゆみを抑えることができるのです。
このことについては別ページにて詳しく説明してますので、合わせて確認してください。