アトピーの方は、健康な方に比べて皮膚のバリア機能が弱かったり、搔き壊しによって傷ができていたりするため感染症にかかりやすい傾向にあります。
この感染症のひとつが「ヘルペス」です。もしもヘルペスに感染して症状をこじらせてしまうと「カポジ水痘様発疹症」という、より重度の感染症に移行してしまいアトピーと合わせて重症化してしまう恐れがあります。そのため、ヘルペスに感染した場合、できるだけ早く適切な処置をしなくてはなりません。
このページでは、アトピーとヘルペスを併発してしまった際の対処法について説明していきます。
目次|このページでわかること
ヘルペスに感染した時の対処法
ヘルペスは「ヘルペスウイルス」というウイルスによって引き起こされる感染症です。放っておいても2週間ほどで自然と治る症状ですが、痛みがあったり、外見も損なったりするため、かなり煩わしいです。またアトピーの方の場合、後述する、より重度の「カポジ水痘様発疹症」という症状に移行する可能性もあります。カポジ水痘様発疹症になると、顔を中心に広範囲で重症化するため、もしもヘルペスを発症したらすぐに対処した方が賢明です。
ヘルペスへの対処法は主に下記の通りです。ヘルペスウイルスが原因となっているため、そのウイルスの増殖を抑えることや、殺菌することが有効です。
【ヘルペスへの対処法】
- 抗ウイルス薬を飲む・塗る
- イソジンで消毒
抗ウイルス薬
先述のように、ヘルペスは「ヘルペスウイルス」というウイルスに感染することによって起こります。そのため、感染した際は、「抗ウイルス薬」が第一選択肢です。抗ウイルス薬とはウイルスが増殖するために必要な酵素と呼ばれる物質を阻害することによって、ウイルスの増殖を抑える薬のことです。抗ウイルス薬は使用の判断が難しいため、一部を除き薬局で買うことはできません。そのためまずは皮膚科か内科を受診しましょう。
抗ウイルス薬には主に「外用薬(塗り薬)」「内服薬(飲み薬)」「点滴」の3種類があり、症状の段階などによって用途が分かれます。外用薬 < 内服薬 < 点滴の順番で効果が強くなっていきます。
【外用薬】…軟膏やクリームなど、皮膚に塗るタイプの薬。症状が比較的軽い時に、これ以上症状が広がらないようにする目的で使用します。
なお、外用薬に限っては市販薬も存在します。ただし、市販薬はヘルペスの再発を防ぐ薬であるため、初めて感染した際には使用できないという注意点があります。
【内服薬】…飲み薬。錠剤タイプや粉薬タイプなどがある。ヘルペスウイルスは感染すると、皮膚から神経細胞へと侵入します。内服薬は皮膚だけでなく、神経細胞にいるウイルスの増殖も抑えてくれます。そのため、外用薬よりも効果が強いです。
【点滴】…一番効果が強く、カポジ水痘様発疹症にまで進行した際などに使用します。
下記に抗ウイルス薬の種類を記します。特に覚える必要はありませんが、微妙に副作用等もあるため気になる方は参考にしてください。
薬名 | 剤型 | 副作用 |
ゾビラックス (アシクロビル) |
内服・外用・点滴 | 吐き気 |
バルトレックス (塩酸バラシクロビル) |
内服 | 吐き気 |
アラセナA (ビラダビン) |
外用薬 | 皮膚の刺激感と発赤 |
このように、ヘルペスに感染したら皮膚科か内科を受診して「抗ウイルス薬」を処方してもらうのが重要です。なお、よく似た薬で「抗生物質」というものがあります。しかし、「抗生物質」は細菌に対する薬であり、ウイルスには対処できません。細菌とウイルスは似て非なるものです。簡単に説明すると、抗生物質は細菌の細胞を直接破壊する薬です。ですが、ウイルスは細菌と異なり自身の細胞を持たず、宿主(人間)の細胞に寄生するものであるため、抗生物質で破壊することができません。
抗ウイルス薬を使用することで、症状を和らげることができる。
イソジン消毒
さて、ここまで、ヘルペスウイルスに対する「抗ウイルス薬」について説明してきました。ただ、これらの薬の効果はあくまで「ウイルスの増殖を抑える」だけです。
そのため、原則5日以内に使用することで症状を緩和させることができますが、それ以降は効果が薄いという欠点があります。そこで、もう一つの選択肢となるのが「イソジン」という消毒液です。うがい薬として有名なアレです。
イソジンには強力な殺菌・消毒作用があり、細菌だけではなくほとんどのウイルスに対しても有効であり、ヘルペスウイルスに対しても殺菌作用を持ちます。そして、その強力な殺菌力とは裏腹に他の消毒液と比べて刺激が少ないという特徴があります。そのためアトピーのような敏感な皮膚でも比較的安心して使用できます。
塗る時には、脱脂綿などにイソジンを染み込ませて、患部を抑えるようにして塗っていきます。こするようにして塗りつけてしまうと、水疱のが破けてしまう恐れがありますので注意しましょう。実際には10倍に希釈して使用しても、充分に効果が期待できます。
先述したように抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑えて、症状の悪化を防ぎ自然治癒を促すものです。しかし、ウイルスが増殖しすぎてしまった場合、その効果を充分に発揮できなくなります。その時に有効なのがイソジンによる消毒なのです。
うがい薬として有名なイソジンにはヘルペスのウイルスを殺菌する作用がある。
ここまでの説明のように、ヘルペスに感染してしまったらできるだけ早く、抗ウイルス薬でウイルスの増殖を抑えたり、イソジンによる消毒を行って症状の悪化を防ぐことが大切です。
ヘルペスの炎症の特徴は、通常のアトピーと異なって痛みを伴う水疱ができるところにあります。もしも、かゆみ以外に痛みも感じた場合は感染症を疑って見るといいでしょう。
ヘルペスを予防するには
ヘルペスはヘルペスウイルスに感染することによって起こります。そのため、感染した際は抗ウイルス薬でウイルスの増殖を防いだり、消毒をしたりすることが有効であることがわかります。
ただし、ヘルペスは、現在の医療では完全に治癒することがありません。感染したウイルスは神経細胞に潜伏し、宿主の体調が崩れたり、免疫力が落ちたりすると再び活性化して再発することがあります。その際に、アトピーの患部に感染してしまうと症状が合併して重症化してしまうのです。
そこで、ヘルペスを再び発症しないための予防法について説明します。実際に気をつけたい点は下記の通りです。
【ヘルペス再発予防のポイント】
- 体内のアミノ酸「リジン」と「アルギニン」のバランス
- 免疫力を高める
- 適度にストレスを発散する
ただし、過度に神経質になる必要はありません。ヘルペス菌は多くの人が感染していますが、その人たちのほとんどが問題なく過ごしています。私もヘルペスに感染したことがありますが、あまり気にしていません。
体内のアミノ酸「アルギニン」と「リジン」のバランスを意識する
『「アルギニン」と「リジン」のバランスを意識する?なんのこと?』ですよね。
「アルギニン」と「リジン」は両方とも、体内に存在するアミノ酸の種類のことです。アミノ酸とは体内で皮膚の元になったりするたんぱく質を構成する物質で、体内で自然に作り出せるものを「非必須アミノ酸」、体内で作ることができないので、食べ物などから補給しなくてはいけないものを「必須アミノ酸」と呼びます。
この2つのアミノ酸のバランスを保つことがヘルペスの予防に重要なのです。
詳しく説明します。
「アルギニン」は「非必須アミノ酸」のひとつで、細胞の増殖を促進させたり、コラーゲンというたんぱく質を作る素になるため、傷の修復など促す働きを持ちます。しかし、ヘルペスにおいては、ヘルペスウイルスの増殖を促す作用があるため、ヘルペスの悪化を招いてしまいます。
一方、「リジン」は体内で作り出せない「必須アミノ酸」で、アルギニンと同様に細胞の増殖を促したり、コラーゲンを作る素になります。そして、ヘルペスにおいてはアルギニンの作用と拮抗する性質を持つため、リジンを摂ることでヘルペスウイルスの増殖を抑制することができるのです。
このように、アルギニンは「非必須アミノ酸」であるため、体内で自然に作り出されます。そのため、故意に減らすことは難しいですし、また、減らしていいものでもありません。そのため、ヘルペスにおいて、このアルギニンと拮抗する働きをもつ「リジン」を摂ってバランスを保つ必要があるのです。
この時のアルギニンとリジンのバランスは1:4であることが望ましいとされています。このバランスを守ることで、ヘルペスの再発を抑えることができます。
【ヘルペスの予防に重要な「アルギニン」と「リジン」のバランス】
アルギニン:リジン=1:4
では、このバランスを守るにはどのような食事を心がければいいのでしょうか。実はそんなに難しいことは考えなくても、バランスのとれた食事を心がければ特に問題はありません。アルギニンとリジンは多くの動物性タンパク質に1:4のバランスで含まれていいます。また、野菜類においては1:1です。そのため、動物性タンパク質と野菜をバランスよく食べればいいことがわかります。
ただ、アトピーの方の中には動物性タンパク質の摂取を制限したり、完全に摂らないようにしていることがあります。そして、それは概ね正解と言えます。しかし、このような食生活を続けて、ヘルペスに感染したからといって急に肉類などを食べたりすると、体内でタンパク質を分解できずにアレルギー反応を起こす可能性があります。
もしも動物性のタンパク質を摂る場合は、肉類でなく魚類で摂取するといいです。魚であれば比較的分解しやすい性質があるからです。また、このような場合「リジン」はサプリメントで摂ることも有効です。
このように体内のアルギニンとリジンのバランスを保つことで、ヘルペスの再発を防ぐことができます。
体内のアルギニンとリジンのバランスを1:4に保つことで、ヘルペスの再発を予防できる。
免疫力を高める
ヘルペスは、宿主の免疫力が落ちているときなどに、ウイルスが増殖して再発することが多いです。そのため、免疫力を高めることはヘルペスの予防に重要です。
私たちの体の免疫細胞は、細菌やウイルスの迎撃を担当する細胞(Th1)と、アレルゲンや老廃物などを担当する細胞(Th2)の2種類に分かれます。そして、この2つの細胞はシーソー関係であり、どちらかが増えるとどちらか減るというような関係になっています。
アトピーの方は後者のTh2が多くなり、Th1が少なくなっている状態です。そのため、もともと感染症に対して弱いのです。このバランスを整えることで、感染症への耐性を上げてヘルペスを再発しにくくなり、ひいてはアトピーの改善にもつながります。
免疫力を上げる方法はいくつかありますが、最も重要なのは腸内環境を整えることです。腸には体の免疫細胞のうち約7割が集中しており「人体最大の免疫器官」と呼ばれています。この腸を健康にすることで、免疫力を高めることができます。また、腸内環境を整えることで、先に説明した2種類の免疫細胞のバランスを整える働きをする働きを持った、もうひとつの免疫細胞が活性化されます。そのためTh2優位に傾いた免疫バランスを整えることができるのです。
そこで、腸内環境を整えるために、発酵食品や乳酸菌のサプリメントなどを意識して摂るようにしましょう。
ヘルペスの感染や再発を防ぐためには、体の免疫力を高めることが重要です。そのために重要なのが腸内環境を良くすることなのです。
腸内環境を整えて免疫力を高めることで、ヘルペスの感染や再発を予防することができる
適度にストレスを発散する
大人でヘルペスにかかる人は、仕事や人間関係などでストレスを受けているときなどが多いです。
ストレスがかかることで、自律神経が乱れ免疫力が低下します。そのため、ヘルペスウイルスの増殖を抑えられなくなり、再発してしまうのです。
ヘルペスの再発を防ぐために、適度にストレスを発散することは重要です。運動や友人との交流など自分なりのストレス解消方法を見つけるといいでしょう。ちなみに私は、仕事のストレスを発散するために、趣味と太ることの防止も兼ねて帰宅後に軽いジョギングをするようにしています。
ヘルペスの感染、再発を防ぐために、ストレスの発散が大切
すでに説明しているように、ヘルペスに感染すると現在の医療では完全にヘルペスウイルスを退治することはできません。そのため、再発の予防は大切です。とはいうものの、そこまで神経質にならなくても大丈夫です。乱れた生活を避け、普通の生活を普通に心がけましょう。
私自身、以前にヘルペスとアトピーが合併したことがあり、後述する「カポジ水痘様発疹症」になったことがあり、顔面から首元まで痛みのある水ぶくれが広がってしまったことがあります。そのため、1ヶ月以上は外出もできませんでした。
ただ、その頃はアトピーに関して医療不信になっていたため、医師にかかることはしませんでした。また、ここまで説明してきた様な知識も無かったため、抗菌作用のあるティーツリークリームを塗り、ただ自然治癒を待つだけでした。それでも、治りましたし、10年以上経った今、1度も再発していません。特に何も対策してはいませんが自然と上記の対策からはずれない生活をしています。
ヘルペスとアトピーが合併すると重症化する
ここまで、ヘルペスに感染した際の対処法について説明してきました。ヘルペス自体は多くの人が保菌している菌であり、そこまで深刻になる感染症ではありません。ただし、アトピーの方の場合、このヘルペスに感染することによって症状が重症化してしまうことがあります。
ヘルペスとは
さて、ここでヘルペスについて少しおさらいしましょう。
すでに説明している様にヘルペスとは「ヘルペスウイルス」に感染することによっておこる疾患であり、皮膚に痛みを伴う水ぶくれが現れます。口唇ヘルペスや水疱瘡などはこのヘルペスウイルスによって引き起こされます。
ただ、ヘルペスウイルスは多くの人が感染しているウイルスであり、基本的には下記の様な段階を経て約2週間ほどで自然治癒します。このページで説明している対処法を行えばより早く改善できます。
【ヘルペスの治癒段階】
- ヘルペスには発症する前に前駆症状として、ピリピリとした軽い痛みが生じることがあります。何回もヘルペスを繰り返している方はこの痛みで再発を予期できる様です。
- 自覚症状があらわれて約半日ほどするとその部分が赤く腫れてきます。これは、皮膚上でウイルスが活性化して増えている状態です。この段階で抗ウイルス薬などの治療ができれば効果的です。
- さらに1日ほど経つと、腫れの上に白っぽい水ぶくれができてきます。普通のアトピーの炎症と異なって、引っ掻いたりするととても痛いです。また、この水ぶくれの中にはウイルスが大量に存在します。そのため、水ぶくれを引っ掻いた手で、他の箇所を触ったりするとうつる可能性があります。
- この水ぶくれは、放置しておくと2週間ほどでかさぶたに変わり、自然に剥がれ落ちて行きます。症状があるうちに無理に引っ掻いたりしない限り跡も残らないので心配は入りません。
これが、ヘルペスが発症してから治るまでの大まかな流れになります。
ただ、ヘルペスは現在の医療では完全に治すことはできません。体内に侵入したヘルペスウイルスは神経細胞の中に潜伏しており、宿主の免疫力が落ちたときなどに再発するのです。
カポジ水痘様発疹症
すでに述べている通り、ヘルペス自体はなんでもない様な感染症です。しかし、アトピーの方はこのヘルペスによって病変が重症化することがあります。その症状を「カポジ水痘用発疹症」と呼びます。
カポジ水痘様発疹症とは簡単に言えば、ヘルペスが重症化して広範囲に広がってしまった症状をさします。一般的なヘルペスは主に口の周りに限定して現れますが、アトピーの場合は皮膚のバリア機能が低下していたり、免疫バランスが崩れていたりするため、その部分にウイルスが広がり、重症化してしまうのです。
主に発熱や、だるさなどがあり、痛みを伴う水ぶくれやじゅくじゅくした炎症が顔面から首回り、胸まで広がります。
私も経験があるのですが、この状態になると、正直外出は厳しいです。
カポジ水痘様発疹症になってしまった時は、先述した抗ウイルス薬のうち、効果の強い点滴のタイプがもっとも有効です。すぐに専門医を受診し処置してもらう様にしましょう。
アトピーの方は、皮膚バリア機能の低下や免疫力の乱れによってヘルペスが広範囲に広がって重症化してしまうことがある。
まとめ
アトピーの方は健康な肌の方に比べて、皮膚の感染症を起こしやすい傾向にあります。そのひとつが「ヘルペス」です。
普通の方では大したことの無い感染症ですが、アトピーの方の場合、アトピー自体の症状と相まって広範囲で重症化してしまうことがあります。
もしも、ヘルペスを発症してしまったらなるべく早く対処するようにしましょう。また、普段からの予防も大切です。