アトピーの原因として、世間では「ダニが原因だ」「遺伝子に欠陥がある」などと様々な情報が溢れています。
そのような中で、近年、慶應義塾大学の発表でアトピーの原因は「黄色ブドウ球菌」とい細菌が原因であるという発表がされました。
この情報を耳にしてその真偽が気になる方や、「ならば、消毒してればアトピーは治るのか」と考えて消毒療法を頑張っている方は多いかもしれません。 ただ、この黄色ブドウ球菌は確かにアトピーを「悪化させる」原因にはなるのですが、アトピー「そのもの」の原因ではありません。 このことを理解せずに、安易に消毒療法などを行うと長期的に見ると返って皮膚の状態を悪化させてしまうことになります。
このページでは、黄色ブドウ球菌とアトピーの関係性や、もし黄色ブドウ球菌によってアトピーが悪化してしまった時の対処法について説明していきます。
目次|このページでわかること
ブドウ球菌は「悪化」の原因ではあるが、「アトピー」の原因ではない
冒頭でも少し触れましたが「ブドウ球菌」は確かにアトピーの症状を悪化させることがあります。ただ、それはあくまで、単に「悪化」させているだけであってアトピーそのものの原因ではありません。
まずは、この仕組みについて説明していきます。
ブドウ球菌とは:皮膚常在菌の話
「ブドウ球菌」とは皮膚常在菌と呼ばれる菌の一種を指します。
私たちの皮膚上には実は様々な菌が生息しており、それらの菌は私たちの皮膚にとって有益な働きをする「善玉菌」、感染症などを起こして有害な作用をもたらす「悪玉菌」、特に何もしないけど、環境によって悪影響を及ぼすかもしれない「日和見菌」とに分類されます。
菌と聞くとゾッとする方も多いかと思いますが、実はこのような常在菌とわたしたちは共生関係であり。この菌群がいるからこそ、わたしたちは空気中の雑菌から守られているのです。
この関係について、より理解しやすくするために、皮膚常在菌の特性について、それぞれ簡単に説明していきます。主な常在菌は下記の通りです。
【皮膚常在菌の代表例】
- 【善玉菌】:表皮ブドウ球菌
- 【日和見菌】:アクネ菌
- 【悪玉菌】:黄色ブドウ球菌
【善玉菌】表皮ブドウ球菌
まずは、有益菌の代表である「表皮ブドウ球菌」について説明していきます。ここで勘のいい読者の方は「???」と思ったことでしょう。
冒頭ではブドウ球菌がアトピーを悪化させる原因であると解説してきました。ですが、ブドウ球菌には複数の種類があります。そのなかで、表皮ブドウ球菌は肌を守る重要な働きをしている菌なのです。アトピーを悪化させてしまうのは後述する「黄色ブドウ球菌」という菌のことを指します。
話を「表皮ブドウ球菌」に戻します。表皮ブドウ球菌は皮膚の皮脂を餌として活動しています。表皮ブドウ球菌が皮脂からエネルギーを得る際に、皮脂の成分を「脂肪酸」と「グリセリン」という物質に分解します。
この物質が皮膚を雑菌から守るために重要です。私たちの体にとって有害な働きをする雑菌群は酸性の環境では活動できません。表皮ブドウ球菌が作り出す脂肪酸は酸性の物質であるため、皮膚の状態を常に弱酸性に保ち雑菌群が寄り付かないバリアを形成してくれているのです。
例えば、蜘蛛は見た目からも気味の悪い虫として、決して好かれる虫ではありません。しかし、台所などにいる蜘蛛は、ゴキブリなどの害虫を食べてくれる益虫としての側面もあり、昔は害虫の繁殖を防ぐために、蜘蛛は退治しなかったこともあります。
皮膚上の菌も同様であり、菌だからと言って必ずしも悪いものではありません。表皮ブドウ球菌は皮膚の状態を雑菌が繁殖できない環境に整えることで、皮膚を感染から守る有益菌なのです。
【日和見菌】アクネ菌
次に、肌の状態によって、働きを変えるお調子者の「アクネ菌」について説明します。
皆様も思春期の頃は、アクネ菌に悩まされたことがあるのではないでしょうか。そう、ニキビの原因菌となってしまう菌です。 アクネ菌は普段は表皮ブドウ球菌と同じように働く菌で、肌を雑菌群から守ってくれています。
しかし、思春期であったり、こってりとした油物を多く食べ過ぎたりして、皮脂が過剰に分泌されすぎると、毛穴などで異常繁殖して炎症を起こしてしまいます。
皮膚の状態によって、良い働きをしたり、悪い働きをしたりしてフラフラしているのがアクネ菌のような日和見菌です。
【悪玉菌】黄色ブドウ球菌
3つ目に、この問題の核である「黄色ブドウ球菌」について説明します。
黄色ブドウ球菌は数は少ないですが、すべての人の皮膚上に存在しているため、この菌がいること自体は問題ではありません。
この菌は 皮膚の状態が酸性に傾いていれば、おとなしくしていて無害なのですが、アルカリ性に傾くと急に活性化して増殖し始め、炎症をおこしてしまいます。
また、私たちの体内は少しアルカリ性に傾いています。そこに黄色ブドウ球菌が侵入すると、急激に増殖して感染症になってしまいます。アトピーの方は皮膚を掻きこわしてしまって、傷があることが多いです。すると、その傷から黄色ブドウ球菌が侵入して「とびひ」などの感染症を併発するのです。
さらに、黄色ブドウ球菌は感染した際に「スーパー抗原」と呼ばれる炎症物質を作り出すことがあります。本来「抗原(アレルギー等の原因物質)」と呼ばれるものは、特定の免疫細胞を刺激して炎症を発生させます。しかし、このスーパー抗原は、身体中の免疫細胞を所構わずに刺激してしまうため、より強い炎症反応を発生させてしまいます。
このように、健康な皮膚の状態であれば無害な菌なのですが、ひとたび環境が悪くなると炎症をおこしてしまう菌が「黄色ブドウ球菌」です。これが、「ブドウ球菌がアトピーの(を悪化させる)原因」と言われている理由です。
ここまでの説明のように、私たちの肌には、皮膚常在菌という細菌群が存在し、それらがバランスよく存在することで、空気中などに存在する雑菌やウイルスから皮膚を守ってくれているのです。
しかし、これらのバランスが崩れてしまうと皮膚の炎症を強めてしまうことになるのです。
私たちの皮膚には「常在菌」と言う菌群が生息していて、皮膚を有害菌から守ってくれている。
しかし、このバランスが崩れると感染症を起こしてアトピーを悪化させてしまうことがある。
ブドウ球菌が繁殖してしまう理由
上記で説明した通り、黄色ブドウ球菌は通常はごく少量しか存在しておらず、害になることはほとんどありません。ただし、アトピー性皮膚炎の方は、稀にこの黄色ブドウ球菌が多くなっていることがあります。
私たちの皮膚には常在菌の他にも有害菌を排除するための自前の仕組みが備わっています。それが「抗菌ペプチド」というタンパク質の1種であり、有害菌を殺菌する働きを持っています。言うなれば、天然で副作用のない抗生物質といったところでしょうか。
この、抗菌ペプチドは主に皮膚のターンオーバー(生まれ変わり)によって作られますが、アトピーの場合、このターンオーバーが乱れていることが多いです。そのため、抗菌ペプチドをうまく作り出せないことがあります。また、炎症を起こしている皮膚においても、抗菌ペプチドがうまく作り出せません。
さらに皮膚が乾燥した状態であっても黄色ブドウ球菌は繁殖しやすくなります。先に説明したように表皮ブドウ球菌のような善玉菌は皮脂を餌にして活動することで、皮膚の表面を弱酸性に保っています。その餌がなくなるということは、皮膚を酸性に保てなくなるということです。これによって、皮膚表面が悪玉菌好みのアルカリ性に傾き、黄色ブドウ球菌が繁殖してしまうのです。
このように、アトピーの方の肌は、黄色ブドウ球菌が繁殖しやすい要因をいくつか持っています。これらの要因によって、皮膚上で悪玉菌の勢力が強くなってしまい、かゆみや炎症の元になってしまいまうのです。
アトピー肌の人は黄色ブドウ球菌が繁殖しやすくなる要因をいくつか持っている。
感染症を起こしてしまった時の対処法
さて、ここまで、黄色ブドウ球菌のアトピーへの影響について説明してきました。 ここでは、黄色ブドウ球菌が悪化原因となっている場合の対処法について説明していきます。
ただ、通常のアトピーであまり神経質になる必要はありません。本当にこれらの菌が害になっている場合は感染症として別の症状が出るからです。 ですが、このような感染症になった場合は消毒して、有害菌を殺菌する必要があります。
【感染症を起こしてしまった時の対処法】
- イソジンなどの消毒液で消毒
- 酸性水で消毒
イソジンなどの消毒液
自分でできる対処法として最も手軽なのが、イソジンという消毒液で患部を消毒することです。もっとも安価で手軽な方法ですが、皮膚への刺激が強く、かぶれなどを起こしてしまう場合があります。
入浴時に抗菌作用のある石鹸で患部を軽く洗い、イソジンで消毒し後1分ほど放置します。1分たったらシャワーでしっかりと洗い流して終了です。お風呂から上がったら、軟膏などを塗ってガーゼでしっかりと保護しておきましょう。 なお、「イソジン」と聞いてうがい薬を想像される方がいますが、うがい薬のイソジンにはアルコールが入っており、アトピーの患部に塗るととてもしみます。使用するときは「イソジン液」というものを使用しましょう。
ただ、先述したように、イソジン消毒は効果は大きいのですがデメリットもあります。それが、刺激性が強いということです。そのため、使用部分がかぶれてしまい余計に症状が悪化してしまいます。 まず希釈したものを試して、かぶれるようであれば使用を中止しましょう。
酸性水による消毒
次に挙げるのが「酸性水」と呼ばれる水です。水には「酸性水」と「アルカリ性水」とがあり、酸性水には強い殺菌作用があるのです。
これを患部に使用することによって、患部の黄色ブドウ球菌を殺菌することができます。 酸性水は消毒液に比べて皮膚への刺激が低いのが特徴です。また、無色透明なため、外出先でも使用しやすいです。しかし、酸性水そのものや、整水器が高額なのが弱点です。
ただ、低いとは言っても刺激がゼロではありませんので、もし肌に異常を感じるようであれば、使用を中止しましょう。
ここまで、黄色ブドウ球菌の対象法について説明してきました。しかし、このような菌をあまり気にしなくても大丈夫です。 確かに、病院でアトピーのじゅくじゅくした部分を検査すると、ブドウ球菌が発見されます。しかし、それらの多くは「ただ居る」だけのことがほとんどです。ブドウ球菌が害になった場合は「とびひ」や「蜂窩織炎」という別の感染症として現れます。
ただし、このような消毒療法が有効なのはここまでです。
無闇に消毒療法に走ると、長期的に見たときに返ってアトピーの悪化の原因になります。 消毒療法は、皮膚常在菌全てに対して働きます。つまり、表皮ブドウ球菌など、皮膚を守ってくれる菌も殺菌してしまい、それが返ってアトピーを悪化させてしまうのです。
また、黄色ブドウ球菌に対して消毒を行いすぎると、菌が耐性を持ち、消毒液の効かない菌として繁殖してしまうことにもなります。 消毒療法を行うときは、感染症を起こした時のみに短期的に行うようにしましょう。
なお、感染症を起こした時にステロイドの使用は禁忌です。ステロイドは免疫力を抑制する薬です。そのため、感染症部分に使用すると、かえって菌の増殖を促してしまいます。
実際に学生時代の友人の女の子で、同じようにアトピーだった子がいます。一時期その子のことを学内で見かけない時期がありました。3週間ほどして再び学内で見かけることがあり聞いてみたのですが、首の部分にとびひの症状が出てしまって、知らずにステロイドを塗ったところ、顔中にまで症状が広がってしまい家の外に出られなかったということでした。
感染症を起こした場合は消毒療法が有効だが、過度な消毒はアトピー悪化の原因となる。
細菌はあくまで「悪化の原因」であって、「アトピーの原因」ではない。
感染症になるのを予防するには
さて、黄色ブドウ球菌によって感染症を併発した際の対処法について説明してきましたが、もちろん感染症なんて起こさない方がいいに決まっています。
そこで、最後に予防法についても説明していきます。
しっかりと保湿
すでに説明しているように常在菌のうち、善玉菌と呼ばれるものたちは乾燥を嫌います。乾燥すると餌となる皮脂が少なくなるので、脂肪酸などの酸性の物質作り出すことができなくなり、肌を弱酸性に保てなくなるのです。
また、肌が乾燥すると、皮膚自体のバリア機能も低下し、悪玉菌が体内に侵入しやすくなり感染症を起こしやすくなってしまうのです。
そのため日頃から、こまめに保湿剤などで保湿を心がけましょう。その際に抗菌作用の強い「ティーツリーオイル」などを使用してもいいかもしれません。
軽い運動をして汗をかくことを心がける
天然の抗生物質である「抗菌ペプチド」ですが、その一部には汗をかくことで作られるものがあります。
アトピーの方には汗をかく機能が弱くなっている方もいます。そのため、動けるのであれば、日頃から軽い運動を心がけて汗をかく練習をするといいでしょう。
皮膚を洗い過ぎない
皮膚を健康に保つためには、洗い過ぎないことはとても重要です。
女性でメイクなどをする場合は別ですが、強力なクレンジング剤やボディーソープなどはそもそも必要ありません。
このような洗浄剤をやたらと使うと皮膚の常在菌を無作為に殺菌してしまうことになります。そのため、有益菌によるバリアも破壊してしまうことになります。 また、このような洗浄剤で皮膚を洗うと、皮脂を過度に洗い落としてしまうため、乾燥肌にもつながるのです。
このようなことを意識することで、感染症の併発を防ぐことができます。
日々のスキンケアを心がけることが、感染症の予防につながる。
まとめ
さて、このページでは、アトピーの原因と言われている「ブドウ球菌」について説明してきました。
ブドウ球菌は確かにアトピーを悪化させることがありますが、あくまで「悪化させている」だけであり、アトピーそのものの原因ではありません。
そのため、消毒療法などを鵜呑みにして、闇雲に皮膚を消毒してはいけません。過度に消毒を行うと、私たちの皮膚を守っていくれている有益菌までも殺してしまい、長期的に見てデメリットしかありません。
よく、偉そうな研究者の方が「アトピーの原因は○○だ」という研究成果を発表しますが、失礼を承知で言うと、そのような研究は机上の空論か、アトピーのある一面を切り取ったものであることが多いです。このような研究者の多くは、すでにあるエビデンス(科学的根拠)に対して、いかに反論するかに命を捧げています。